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今では高級寿司の代名詞ともいえるマグロの大トロ。しかし、江戸時代には、その脂身があまり歓迎されず、安く手に入る食材だったことをご存じでしょうか。
冷蔵庫のない時代、脂の多いマグロは傷みやすく、保存に不向きでした。そんな脂身をおいしく食べるために生まれたとされるのが、マグロと長ネギを醤油で煮る「ねぎま鍋」です。
現代では高級食材となったトロが、江戸の庶民にとっては手頃な食材だった。そこには、江戸時代ならではの暮らしの知恵と、食の価値観の大きな違いがありました。
現在では、脂ののった大トロや中トロは高級食材として人気があります。しかし、江戸時代の人々は必ずしも脂の多い魚を好んでいたわけではありません。
大きな理由は、保存技術の違いにありました。
冷蔵庫のなかった江戸時代、生魚の鮮度を長く保つことは簡単ではありません。特にマグロの脂身は傷みやすく、保存に向かない食材でした。
一方、赤身は醤油に漬ける「ヅケ」という方法で食べられていました。
脂身は敬遠され、場合によっては捨てられることもあったと伝えられています。
現代では高い値段がつくトロが、江戸時代には価値の低い部位とみなされていたのです。
そんなマグロの脂身を、おいしく食べる工夫として生まれたとされるのが「ねぎま鍋」です。
作り方は驚くほどシンプル。
ぶつ切りにしたマグロと長ネギを、醤油や酒、みりんなどで味付けした汁で煮ます。
マグロを加熱すると脂が溶け出し、その旨味がネギに染み込みます。ネギの香りと甘みがマグロの濃厚な味わいを引き立てる、江戸ならではの鍋料理です。
当時のねぎまは、今のように洗練された高級鍋ではなく、身近な材料を使った庶民の料理として親しまれていました。
江戸時代には、七輪や火鉢を使って小さな鍋を温める「小鍋立て」という食べ方が広まりました。
大人数で囲む大きな鍋とは異なり、少人数でも手軽に温かい料理を楽しめるのが特徴です。
ねぎまは居酒屋でも親しまれ、酒の肴として食べられていました。
実は、1789年に刊行された山東京伝の作品『花東頼朝公御入』にも「ねぎま」が登場します。
そこには、ねぎまを肴に熱燗を楽しむ江戸の人々の姿がうかがえます。
江戸の食文化を身近に感じられる、興味深い記録です。
江戸時代と現代では、マグロの脂身に対する評価が大きく変わりました。
冷蔵・冷凍技術や輸送技術の発達により、鮮度を保ちながらマグロを流通させることができるようになったためです。
さらに、脂ののったトロのおいしさが広く評価され、寿司や刺身の人気食材となりました。
かつては安価だった脂身が、現代では高級な寿司ネタとして扱われています。
食材の価値は味だけで決まるのではなく、保存技術や食文化、時代ごとの好みによっても変わることがわかります。
ねぎま鍋は、現在も東京の郷土料理の一つとして受け継がれています。
ただし、現代ではトロが高価になったため、赤身のマグロを使ったり、だしを効かせたりするなど、さまざまな作り方があります。
マグロの旨味と長ネギの甘みを味わうという基本的な魅力は、江戸時代から変わりません。
かつての庶民料理が、時代を超えて楽しめる伝統料理になっているのです。
江戸時代、マグロの脂身は傷みやすく、あまり歓迎されない食材でした。
その脂身を無駄にせず、おいしく食べる工夫から生まれたとされるのが「ねぎま鍋」です。
現在では高級食材として人気のあるトロも、当時は安く手に入る部位でした。
江戸の庶民が食べていた素朴な鍋料理には、食材を大切にする知恵と、時代によって変わる食の価値観が詰まっています。
今では高級な大トロを使った鍋も、江戸時代には庶民の味だった。そんな意外な歴史を知ると、いつものマグロも少し違って見えてくるかもしれません。